漆黒 能代 sikkokunosiro’s diary

主に思い出を書いています。いつか現在に追いつきます。

少年と…

今日は思い出ではなく作文。

ランダムででてくる単語を使って話を作るというのがあったのでやってみます。

出てきた単語は「草食男子」と「問答無用」。

 

いつも道草を食っている男の子がいたんだ。あ、道草食ってるっていってもあれだぜ、本当に道に生えてる草食ってんの。汚いだろ。でもその子はいくら田舎っていっても異常なくらいにぼろい着物を着てた。きっと貧しくて食うものがなかったんだろうな。生気のない表情でかたい茎までくちゃくちゃやってたんだ。かわいそうだなあと思いながら俺はずっと見ていた。

今日も男の子はそこにいた。歯茎が血だらけでもう草を食うそぶりは見せなかったがあいかわらず空腹そうだったぜ。俺はその子をはげまそうと思ってお得意の歌を歌ってあげたんだ。そしたらその子、しばらく聞いた後、俺の真似をして歌いだした。俺はあまり人を褒めない主義だが、正直その声は今までで一番しびれたぜ。決してうまくはないけど少しかすれた、優しくて耳障りのいい声だった。思わず俺の方が耳を澄ませちまった。そんなことをしてたらいつのまにか派手な服を着たやつがその子の後ろに立っていた。そして男の子としばらくしゃべったらその子を連れてどこかに行っちまった。どうやら男の子は派手なやつに気に入られたらしい。堂々たる誘拐っていう線もあるがまああんなみすぼらしい子を誘拐したってどうにもならないからな。いいことした気がするぜ。

ある日、帰ったら俺の家が壊されてた。きっと農家の連中だな。こっちの事情なんてお構いなし。問答無用で自分のやりたいようにする。嫌いだぜ。しかも次の日。俺が家を建て直してたらあいつら巨大な機械を持ってあたり一面を破壊し始めやがった。これじゃあ俺は冬をこせねえ。どうしたもんかな。

冬がやってきた。食べ物が取れなくなったし家がないせいで貯めてた分は取られるし踏んだり蹴ったりだ。腹が減って俺は限界。ぶっ倒れて死にそうになった時に俺の前に現れた。あの男の子だ。前よりも体が大きくなって着物も新しく、きれいになってる。たぶん派手な男のところで成功したんだろうな。

俺にだってプライドはある。でもここでそんなこといってたってしょうがない。俺はその子に食べ物を恵んでもらえないか頼んでみた。しかし、気づいてものいないような様子で通り過ぎられた。なんでだよ。もう俺のこと忘れたのか。よし、俺の歌で思い出させてやる。俺が歌うと。男の子は振り向き俺に気付いた。やっぱり俺の声は忘れていなかったみたいだな。俺は食べ物をねだるだけのつもりだったがその子は俺を家に置いてくれた。ここまでしてもらうつもりはなかったけどありがてえ。

しかも男の子は自分の舞台にも俺を連れて行ってくれて俺に一緒に歌わせてくれた。俺のとがった高音に男の子の優しい声がかぶせてくれる。俺たちの作るハーモニーは美しかった。この地域ではそこそこ有名になった。俺は少しでも恩を返そうと毎日必死に歌い続けた。

だけど俺にも限界が来た。もともと寿命が少なかったうえに毎日歌ってたから体がまいっちゃたんだ。がんばって続けたんだけど結局春、俺は死んだ。

俺が死んだことに気付いた男の子は俺のために三寸もある墓を作ってくれたんだ。そして言った。「お前のスズのような声は忘れないよ」って。