漆黒 能代 sikkokunosiro’s diary

主に思い出を書いています。いつか現在に追いつきます。

乾死人温屏風

えー今まで思い出を書いて投稿してきましたがもう現在の時間軸に追いついてしまったのでね、ネタ切れです。でも週一ペースで書くという習慣はくずしたくない。

ということで今回はだいぶ前にやった作文です。ランダムで単語が出てくるアプリで出したものを全部使って話作るというやつです。

出たのは「亡骸」「転がす」「創作意欲」でした。

 

 

「お前、なにやってる」

こちらに気付いた男が振り向いた。見たことのない男だ。生気があるのかないのかわからないひん剥かれた目玉と濃いくまが印象に残る。普段ならこの村の陰気さにまじって目にも留めないだろうが、問題はこの男の所業。

太ももがちぎられた男の亡骸を、刃物で刺し、滴る血を無理に絞り出していた。壺にいれていた。

「知り合いだったか?」男が何でもなさそうにいう。

「いや…初めて見た者だ。だが、そんなことはどうでもいい。お前がなにをやっているか聞いている」

「俺は…芸術家…だ。作品を作って日銭を稼いでいる。とは言っても、まともに食ってはいけていないがな。」

「まさか…その血を使うつもりなのか?」

男はそうともちがうとも言わずに死体を壁に座らせ、固まった腕を無理やり半ば切り落としながら壁に打ち付け、固定した。死体は今にも動き出しそうな不気味さを纏っていた。最後に死体の前に座って、神と筆を取り出し、血を墨汁代わりに絵を描き始めた。

さらさらと描きあがったそれは、死体をの内面までもをさらけ出したかのように、真っ赤であった。男は立ち上がり、茫然としていたこちらを見て

「まだいたのか。意外と物好きなんだな」と言った。

「…別に責めはしないが、死者への冒涜だと感じたりはしないのか」

男は口元だけ笑いながら言った。

「いまさらだ。人を食ってるやつらが言えることか?。この村だけを見ても餓死だの口減らしだので死体がゴロゴロ転がってる。生きるためならなんだってやる」

「生きるためなら他にいくらでもやりかたはあるだろう」

男は道具を片づけるとなにも言わずにその場を離れようとした。

「どこへ行く。」

「まだ描くものがある」

ついていくと男は少し驚いた様子だった。

「…本当に物好きだな」

 

しばらく男はいたるところに転がってる死体の顔をちらちらと見て回り「違うな…」などといいながらうろついていた。そしてある亡骸を見たときとても悲しそうな顔をした。小さな女の子だった。

「まさか…知っている者か」

「…いや、単に幼い子が死んでるのを見て残念に思っただけだ」

その子を抱きかかえ再び壁に座らせた。男はしばらく目を何も言わずにその子を見つめていた。創作意欲の行く末を決めているのだろうか。「よし」と言って自分を叩き、その子に触れた。

顔についた泥を丁寧に払い、髪の毛を整えていく。まだ死んで間もないのだろう。他の死体の比べると幾分綺麗な顔をしていた。新しい柔らかい筆での先に赤い粉をつけ、その子の頬に温かみを与えた。現代でいうところのファンデーションである。そして持っていた布をやると体にかぶせてやると明るい顔だけが見え、まるでただ安らかに眠っているようだった。

男は今度は絵を描かずに立ち上がった。懐から乾物を取り出し、その子の前に一つおき、自分でも食べ始め、お前にもやる、ということなのだろうか手を突き出してきた。

「大勢で食べたほうが楽しいだろ」

久しぶりの食物は活力を与えてくれた。

男は荷物をまとめるとつぶやいた。

「…人は無残にのたれ死ぬ。俺は彼らの情動を描き残したいのさ」

夕日を背景にその男は去っていった。