今回も作文。
使わなきゃいけない単語は「コーナーキック」「復讐」「読み物」です。
とある学校の校庭。グラウンドでサッカーをする子供たちの愉快な声が響く。その様子を見守るのがこの男、二宮金次。銅像である。「金次郎」ではない「金次」だ。先代の校長がとりあえず建てたこの像にとりあえず命名し、そのまま定着した。
サッカーボールが金次の方に転がっていく。取りに来た少年が「絶対邪魔だよなあこの像、なんでこんなゴールの近くにあるんだろう」とぶつくさ言って戻っていく。金次の像はその立像位置のせいか今は「邪魔金次」とも言われている。
金次は思っていた。
(はああああ俺の方が前からここにいたしー!。お前らは知らないだろうけどな、この学校の創立当初はサッカーグラウンドなんてなかったんだぞ。ただっぴろい中庭の俺の特等席よ。お前らがわいわいサッカーやれてるのは俺の厚意、なんだからなー)
長い長い年月をかけて性格が完全にねじ曲がっていた金次。今ではこころのなかで浅く貶すことが日課である。
(だいたいさあ、普通銅像とか近くにあったら壊さないように球技とかもうちょっと慎重にやるものじゃないの、なんで全力で少年してんの、抑えてくれよ!)
ボコッ そんなこと言っている間に今度はボールが金次に直撃。
「あ、またやっちゃった…」
(…またこいつか。もうぶつけられすぎて名前覚えてしまった。佐藤 徳貞。人数合わせでいっつも参加しているが、おそろしく、下手だ。)
「なにやってんだよ徳貞ー」またボールを取りに来る。拾い上げたとき目が合う。
「本当この邪魔金次、丈夫だよなー。何回も当てたのに傷一つ入ってねえもん」
(鍛えかたが違うんだよ)
「…」
(うん?ボール持って後ろ下がって何するつもりなんだ…おいちょっとまさか、やめ)
ボウンッ バーン
「うおーすげー頭跳ねる」
(痛ー!立ってる銅像にボールぶつけるなんて正気か?ばち当たれー!)
「わーそれ面白そうだなー」「俺にもやらせてくれよ!」
(は?は????嘘だろーーーー!)
ボーン(ウグッ)
ボスン(ちょっ)
ドシュシュシューン (ぬあああああああ)
「いいかげんにしろー!!!」
子供たちは全員「え?」という表情を浮かべる。
「お前らなあー!いっつもゴール外しまくるくせになんでこういうときだけコントロールいいんだよ!」
「ど、銅像がしゃべったーー!!?」
「ん?あれ、ほんとだ、すごい、怒りのパワーでしゃべれるようになった!」
体もにょきにょき動く。「おおー感激!」
この興奮を伝えようと子供たちを見たが、さすが子供たち、心の切り替えが早い。もうサッカーを再開している。
「ちょっと待てーー!なんか言うことあるだろう」
子供たちは本気できょとん顔を浮かべている。
「だいたいなあ、サッカーなんてくだらないもん、やめちまえー!学生は勉強だー!俺を見習えー!読み物を持て―!」
カチッ
癇に障ったのか子供たちの表情が変わる。「くだらない…だと?」「このレベルのプレイがいったいどれだけすごいことなのかわかっているのかな?」
急に雰囲気が変わり、金次はすこし戸惑う。
「そ、そんなん簡単だろ、俺でもできるわー!」
「ほう。じゃあフリーキックの権利を上げよう、決めてみろ」
「上等だよ」
台から降り、グラウンドに駆け出す金次。ボールの前に立つと、突然緊張感が襲ってくる。
「こ、こんなの簡単だ、簡単」
勢いをつけ、思いっきりキックー
をしたがボールの横にかすっただけで終わり足はほとんど空回り。バランスを失って転んでしまう。
「な、わかったろ、この難しさが」
金次は立ち上がることも、子供たちの顔を見ることもできない。内心みんな自分のことを笑っているんだろうなと思うと恥ずかしく、顔が赤くなる。いや、銅像だから、灰色だったところがもっと灰色になる。
「くそ、覚えてろよ」金次は走り出し、学校から逃亡する。
夜、学校に戻ってきた金次は昼間の悔しさを子供たちへの憎しみ、敵意へと増幅させ、復讐に燃えていた。普段なら寝ている時間だがボールをゴールに蹴りこむ練習で汗を流す。いや銅像だから実際は汗が出たりしないのだけども。
「金次さん、頑張ってますね」
声がした方へ振り向くとそこには佐藤 徳貞がいた。
「な、こんな時間になにしてるんだ」
「あれ、知らなかったんですか?僕いつも夜こっそりここで練習してるんですよ」
「全く知らなかった、寝てた」
佐藤君がボール自分の前におき、蹴る。おしい、ゴールの枠に当たった。
「…みんなは僕がミスしてもドンマイって言ってくれるけど、やっぱり悔しい。僕、サッカー大好きだから。ゴールも決めたいし」
「…サッカー、好きか?」
「いやだから今好きと言いましたよ」
それから金次は子供たちとサッカーをするようになった。本格的にサッカーをやりたいと思いだした金次は子供たちが無事卒業したのを見届けたあと、サッカー強豪校にFA宣言をして入り、銅像として日々サッカー少年たちの体づくりを観察した。
さらに数年後、金次はワールドカップ日本代表としてグラウンドにいた。
「金次さん、いよいよ始まりますね」
隣には同じく日本代表のユニフォームを着た佐藤君がいた
「ああ、努力はかならず報われる、やるぞ」
背番号10は歩き出した。